ナルキッソス ~もしも明日があるなら~ポータブル
ハード:PSP(PCからの移植)
ジャンル:ノベルゲーム
備考:フルボイス(主人公含)
リンク
[角川書店×HOBIBOX]公式サイト
ステージなな(原作公式サイト PC版のプレイと購入が可能)
[灘黒岩水仙郷
[game.watchのレビュー
レビュー
リプレイしたいと感じるADVとはどんなものでしょう?
きょうはそんなお題で一筆失礼します。
テーマはこのほど発売されたPSPのノベルゲーム「ナルキッソス~もしも明日があるなら~ポータブル」
ではスタートです。
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時は2005年、舞台は埼玉県入間市にあるとあるカトリック系病院7Fのホスピス。
主人公、阿東優は2004年の夏に自動車の運転免許を取得した翌日、胸の痛みによりその病院を受診し循環器系の病と分かり入院する。
程なく7F(ホスピス)へと移ったが、彼はそこでの生活に慣れながらもどこかこの病変を自身のこととして受け入れがたく感じながら日々を過ごしていた。
しかしその一方、当初は足繁く来ていた見舞客の足が遠のき、仮退院時に接した家族のいたずらに親切な対応を知覚するに及び、いよいよもって自身の生命がのっぴきならない状況にあることを了解していく。
そんな中一つの意識が彼に芽生える。それは同じ7fの患者であり自分より一つ年上の女性、佐倉瀬津美より投げかけられた「あなたはどちらを選ぶの?」という問いかけを起点とした考察だった。
それは自宅と病院どちらを自分は死に場所に選ぶのかという近い未来に必ず訪れる状況への問いかけだった。
漠然ながらもどちらも嫌だと考えた彼は、その問いかけ前後の交流で知人となった瀬津美を伴い、不和であった父の所有する赤いクーペを無断で拝借し病院を抜け出す。
「それじゃぁ、一緒に行くか?」
「うん」
こうして僅かな資金とありったけの薬を同伴に、2人の旅が始まった。
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さて、プロローグのあらすじをご覧いただきましたがいかがでしたでしょうか?
しかしながら本作は結構なボリュームをほこり、上の物語が完結するとその背景にある物語がアンロッックされるという仕組みになっています。
これを繰り返して物語に登場する人物や病院のバックグラウンドに迫り、または解明し、あるいは共感して進めていく。その反復により本作は進行していきます。
文章が洗練されているのかかなりテンポよく物語が進むので、あまりしんどい思いをせずに読み進められるところがすばらしい本作、きっと綿密に推敲されたのだと思われ、文章も演出もとても丁寧に仕上げられています。
読んでいて「まだこのシーンおわらねぇのかよ」という場面にはなかなか遭遇しにくい作りになっていますので、どうぞ手軽に触れてみてください。
さて、ここからは私的駄感想を。
筆者は障害や病気をネタにしたADVがあまり好きではありません。
類例は古今数多いのですが、某作の盲目の萌えキャラとか不治の病ながらとっこうやく(笑)と奇跡の力wでよみがえったりするあれやこれ。
その発生原因の根本は、これら障害や病気をプレイヤーを泣かせるための要素と作り手が解釈して作っているその方針にこそあります。
その泣かせるということが目的になっていること自体が既に他人事なわけです。相手の境遇に同情して泣くという態度は全く第三者のそれであり、ちょっと考えればわかることなのですが当事者からすればまさに切実な問題なのですから泣いている場合ではないのです。
そこへ来てこのナルキッソス、作者の死生観を徹底して淡々と描くことで見事にドキュメンタリータッチな筆致が心地よい客観的作品となりました。
これを読んでいて驚いたのは、本作からはシーンを盛り上げる工夫こそ凝らされていてもいわゆるプレイヤーを泣かせようという意図やあざとさがどこからも感じられないのです。
上記は決して本作が感動の薄い作品だという意味ではなく、あくまでも読んでいる人間が結果論として泣くという状況に至る可能性はあっても、それをことさらにあおろうとしてこないところがすごいと申しますか、「生と死」についてこれほど明確な哲学をもって書かれた作品はそうそう無いと思われ、ある種の迫力すらにじませる文章はぜひとも多くの人に読んでいただきたいと思わずにいられないクオリティでした。
システム的には台詞読み込み時にその都度1秒ほどロード、メディアインストール機能無し、ダウンロード版も無しとちょっと残念な本作ですが、主人公フルボイス、台詞の聞き直しが可能なメッセージログ機能、素早い既読スキップにいつでも選べるチャプターセレクトと快適なシステムに支えられ、「物語を読む」という本ゲームの基本にあっては「こうだったらいいのに」というのはあっても遊ぶことそれ自体が不自由という局面は全く存在しません。かなり遊びやすいです。
特に上のチャプターセレクトはとても秀逸で、こういう心に残る作品だからこそ好きなシーンを好きに見られる環境が徹底して整っている本作は、フルコンプリートしても読み物としてずっと手元に置いておきたくなる、そういう心境を生じさせてくれます。
これは快適だとひとり感動していたら、なんとシステム部分の開発元はI/OPS2版の開発を手掛けられた有限会社レジスタさん。このI/Oも追々レビュろうと思うのですが、ここはそのプレイさなかゲームシステムで感動するという珍しい体験を筆者にさせてもらった私的に大リスペクトな会社さんです。……どおりですごい作り込まれているわけだ。
このような感じでシナリオ面でもシステム面でも完成されている本作、出回りが少ない関係で入手は多少困難であることが考えられますが、ぜひあそんでみてください。
ボリュームはシナリオ14本(本編12本+PCからの移植2本)、それぞれに読み応えがありまた味付けも違うので、きっと充実したひとときを過ごせることと思います。
始め方
ゲーム起動後、タイトル画面になります。
次のように操作することで、「はじめから」からシナリオを選ぶことができます。
1.タイトル画面でスタートボタンを押す
2.丸ボタンを押す
ここがシナリオ選択画面です。
上下でシナリオを選び、まるで決定します。
タイトル画面の一覧ははじめから
続きから
オプション
おまけ
の順に並んでいます。
操作説明
以下はゲーム中のキー操作です。
- 丸 メッセージ送り、選択肢決定
- 罰 ウインドウ消去、キャンセル
- 四角 メニュー表示
- 三角 ログ表示
- スタート スキップOn/Off
- セレクト オートモードOn/Off
- 方向キー 選択肢の移動