俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル
メーカー:バンダイナムコゲームス(バンプレストレーベル)
開発:ガイズウェア
ジャンル:ADV
ハード:PSP
メディア:UMD
備考:フルボイス&一部モノローグにボイス有り
プレイに視力不要
はじめに
このタイトル、聴いたことあるんだけどよくわかんないんだよなぁという風に逡巡されているそこの貴方(買う前の筆者)、そしてあなたがゲーム好きであれば本作を全力でおすすめさせていただきたく思います。
詳細は後述するとして、本作はよくぞここまで進化した、人間やればここまで出来るんだと目頭が熱くなること必至の良策だったのでした。
どういうゲーム?
伏見つかさ先生原作のライトノベル「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」のゲーム化作品、ジャンルはアドベンチャーとなっております。
ゲームシステムはよくあるノベル風ADVのそれなのですが、細かく微妙に色々違っていて面白い感じです。
まず、平時の会話で「話題」を手に入れ、それを後で「発動するかどうか」を選ぶ場面が出てきます(2つ同時に出現することもある)。それを用いるかスルーすることで物語の流れを操作していくことが進行の基本になります。
これが基本なのですが、通称ツーショット会話(だじゃれじゃないですよ)が折々挿入され、そこでどういう会話を行うかというのが好感度や分岐に大きく関わってきます。
また、この要素こそハルヒ約束の時代から開発元のガイズウェアさんが魂入れて手がけ研究されてきたモーションポートレート技術(2Dのキャラ絵を表情豊かに動かす技術)が惜しみなくつぎ込まれている場面であり、その意味からもクライマックス見所でございます。
ツーショット会話
ユニークなシステムなのでゲーム内でもちゃんとバジーナ大尉がレクチャってくれるのですが、ここでも説明です。
この場面では、オートモードをOnにしたかどうかに関わらず、会話が自動で進みます。
時々「突っ込みタイミング」が現れまして、それが有効である折に四角ボタンを押しますとその「つっこみ」が成立して話題が進みます(もちろんスルーすることも可)。
その、つっこみOn/Offを繰り返しながら最後まで会話を続けると通常のADVパートへ戻り物語が続いていきます。
みどころ
まずすごいのは、冒頭プロローグにて世界観がモノローグフルボイス演出にて徹底的に説明されるので、アニメを見ていなくても、原作を知らなくても本作を楽しむのに全く問題がないということです。
こういう配慮に欠ける、ファンにだけ売れればそれでいっかな志の低すぎるキャラゲのなんと多いことでしょう。ぜひこの「俺妹P」のような開発方針が業界のデファクトスタンダードと成って欲しいと心から思います。
ゲームから入って、他のメディアミックス作品に派生し手を広げていくという消費スタイル、もっとその事例が多くてもいいように思います。
以上の理由より、他作は知らず少なくとも本作は単体のアドベンチャーゲームとして十二分な完成度を誇るものであると筆者は確信する次第です。
一方、本作のキャラ描写の細やかさはまったく素晴らしいの一言につきます。
一人一人その心情が丁寧に描かれ、表面的絵空事で物語を終わらせないようにしようとの工夫があらゆる場面で発揮されています。それが所以か良い雰囲気、本気の雰囲気がシナリオのあちらこちらで醸成されていて、その主張と状況の衝突はすべてのルートを盛り上げることにこの上なく役立っています。
特に伏見先生が直接全編を書き下ろされたあやせルートのトゥルーエンドはその到達難易度の高さを含めて全くラスボス級の良シナリオで圧倒的に読後感が良く、できるなら最後にプレイされることをおすすめいたします。と思わず書いてしまうようないいエンディングでした。
本作の特徴であるつっこみシステムは、その話題を一度でも使うと消えるという性質があり、その取捨選択だけでなく、好感度、フラグと様々な事柄を勘案しながら進めていく様子があります。それを解析し解き明かす過程は、全くゲーム攻略のそれであり、達成時の快感をとても大きくしてくれます。
ノーマルエンドは簡単ですが、ハッピーエンドへの到達はどれもこれもなかなか高難度、しかし以下の電撃インタビューにもあるように、ぎりぎり、攻略サイトを見ないでフルコンプすることは可能(推測が経つ構造)なので、その意味からも面白く試行錯誤することができる構造になっています。
ツーショット会話では時にスルーが必要、しかしリアルの会話同様、つっこまないということはつまり「相手の話を最後まで聴く」ことと同値、パニックも冷静も、傍観も関与もこのリアルタイム性を踏まえれば全く自由に演出し、攻略していくことが可能になります。
そしてその態度対応の様々を原因として変化していくシナリオには、正に血の通った人間の息吹が随所に感じられることでしょう。
おわりに
メーカー買いという言葉があります。
これはある会社さんのファンになって、そこの作品を好んで買う行為全般を指す言葉です。
その大正として王手パブリッシャ(スクエニやバンナム、カプコンコナミセガ任天堂)を選ぶのはある意味手堅いように見えるのですが、実際に開発を委託した会社(デベロッパ)が別である場合、ゲーム部分それ自体のお仕事はそこがこなされていることは決して少なくありません。
ガンスターヒーローズ(トレジャー)、ニーアレプリカント(キャビア)、タクティクスオウガ(クエスト)、バテンカイトス(モノリスソフト)、機動戦士ガンダム 戦士たちの軌跡(ベック)、そして俺の妹がこんなに可愛いわけがないポータブル(ガイズウェア)。
こうした会社さんを追いかけると、作風やゲーム作りにおける哲学の共通性から、より自分の性に合ったタイトルへ巡り会える確率が上がります。
毎週数タイトル(DLタイトルを含めると20タイトル以上)発売されるのが珍しくないゲーム業界にあって、自分の性に合うタイトルを探し当てるのはとても大切なことです。
そういう意味から、面白いゲームに出会った時は、どこがどうやって作ったのかなと少し気にしてみると面白いように思います。
なんでも、ガイズウェアさんのモーションポートレキャラゲシリーズ次作であるところの「涼宮ハルヒの追想」の発売日が3月から5月へ延びたとか。
確かに残念なのですが、その一方より完成度の上がった同作が遊べるということはこれまでの経験から確定なのでそれがどうにも嬉しく楽しみでなりません。
今後も同社の活躍を心より応援したいと思います。そして、いつか本当に多くの人を巻き込み10年20年語り継がれる素晴らしい名作を世に出していただきたいと心より念願します。
重ねてになりますが、一見さんも大歓迎な希なる良策キャラゲなので、高難度ADVがお嫌いでなければぜひやってみてください。